第1回 これって発明?、特許になるの?
<特許になるか否かは特許請求の範囲の書き方次第>
弁理士会の無料特許相談やINPITの知財総合支援窓口の相談員をしていると、「従来なかったアイデアや製品を思い付いたのだが、これは特許になりますか」という相談が少なからずあります。
特許法は、特許出願をした発明(より正確には「特許請求の範囲」に記載された発明)は審査官による実体審査を受け、特許法に規定されている拒絶理由がなければ、「特許査定」(特許をすべき旨の査定 特許法第51条)が得られ、この「特許査定」に基づいて特許権の設定をすることができる(特許法第66条)と規定しています。また、特許法は、実体審査における主な拒絶理由として「新規性がない」、「進歩性がない」という理由を規定しています(特許法第29条)。
「新規性がない」とは、特許出願された発明は出願時に知られている発明(文献若しくは実施品などで国民が知り得る状態になっている発明。「公知の発明」と言います。)と同一であり、特許に値する「新しい発明ではない」という意味です。
「進歩性がない」とは、特許出願された発明は公知の発明と同一ではないが、当業者が公知の発明から容易に創作できた発明であるから、特許に値する「新しい発明ではない」という意味です。
拒絶理由通知(「拒絶査定」(拒絶をすべき旨の査定 特許法第50条)となる理由の通知)の殆どは「新規性がない」、「進歩性がない」という理由ですので、相談者が思い付いたアイデアや製品の発明を特許出願の「特許請求の範囲」に記載するとき、「新規性」及び「進歩性」があるような記載にすれば、特許にすることができるということになります。
相談者の思い付いたアイデアや製品の発明が特許になるか否かは、特許出願の「特許請求の範囲」の記載次第ということになります。
<審査官は特許査定を裁量することはできない>
特許出願の実体審査では、審査官は、出願時に公開されている世界中の特許文献(「先行技術文献」と言います。)を調査し、特許出願の「特許請求の範囲」に記載された発明(「出願発明」と言います。)と同一の発明若しくは当該発明と類似若しくは近似した発明が記載された先行技術文献を探します。
そして、出願発明の「新規性」若しくは「進歩性」を否定する証拠となる先行技術文献が見つかれば、審査官は出願人にその先行技術文献を提示して「新規性」若しくは「進歩性」を否定する拒絶理由を通知しなければなりません(特許法第50条)。また、出願発明の「新規性」若しくは「進歩性」を否定する証拠となる先行技術文献が見つからなければ、審査官は出願人に「特許査定」を通知しなければなりません(特許法第51条)。
出願発明が特許になるか否かは、審査官が「新規性」若しくは「進歩性」を否定する証拠となる先行技術文献を見つけられたか否かによって決まり、審査官は、先行技術文献調査で先行技術文献が見つかれば、拒絶理由を通知し、先行技術文献が見つからなければ、特許査定を通知しなければならず、裁量によって特許査定をしたり拒絶査定をしたりすることはできません。
相談者によっては、面接審査などを上手く利用すれば、審査官の裁量によって特許査定が得られるのではと誤解している方もいますが、審査官の審査行為(この審査行為は「行政処分」に相当します)は「羈束行為(きそくこうい)」(法令の規定 通りに行為をしなければならない行政行為)と呼ばれ、特許法では特許査定にするか否かに審査官の裁量が入る余地はない規定になっています。
<どうすれば、特許になる?>
特許出願をする発明が特許になるには、特許法上では出願発明が先行技術文献に対して「新規性」及び「進歩性」を有する構成を有していればよいということになります。
特許法には、審査官が「新規性なし」及び「進歩性なし」の証拠となり得る先行技術文献を見つけ、その先行技術文献を用いて「拒絶査定」をする場合、その先行技術文献を提示して出願人に「特許請求の範囲」を補正する機会と審査官の「新規性なし」若しくは「進歩性なし」の判断に対して反論をする機会を与えなければならないと規定されています(特許法第17条の2、第50条)。
審査官から「新規性なし」若しくは「進歩性なし」の拒絶理由が通知された場合は、拒絶の対象となっている請求項に記載の発明に、提示された先行技術文献に記載されていない新たな構成を追加する補正を行い、提示された先行技術文献が補正後の出願発明の「新規性」若しくは「進歩性」を否定する証拠とならないようにすれば、拒絶理由を解消することができ、「特許査定」になる可能性が高くなります。