第2回 新規性の審査って、どんな審査?

<出願発明と同一の構成要件を備えた公知の発明を探す>

 出願された発明(以下、「出願発明」と言います)の新規性は、出願前に出願発明と同一の発明が公知になっていれば、その公知の発明によって否定されます。
 従って、出願発明の新規性の審査は、出願前に公知となっている、出願発明と同一の構成を有する発明の有無を調査することと言えます。
 実際の審査では、主に出願前に全世界で公開されている特許文献(実用新案登録文検を含む)の中に、出願発明と同一の構成を有する発明が記載された特許文献があるか否かを調査しています。

<出願人は、保護を受けたい発明の構成要件を特定しなければならない>

 特許法に規定される保護対象の「発明」は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条)です。
 「高度のもの」は「実用新案法の考案よりも高度のもの」という意味で、「創作」は「新しいものを作り出す」という意味ですので、特許法が保護する「発明」は、実質的に「新規に創作した自然法則を利用した技術的思想」ということができます。
 技術者の創作活動の観点で見れば、「新規に創作した、自然法則を利用した技術的思想」は、「技術的課題を有する従来の構成に対して、その技術的課題を解決する新しい技術的な構成を追加したもの、若しくは技術的課題を有する構成を技術的課題を生じない構成に置換して創作したもの」と言い換えることができます。

 創作した発明について特許を受けるには、特許出願の出願人は「特許請求の範囲」を作成し、願書に添付して特許庁長官に申請する必要があります(特許法第36条)。
 「特許請求の範囲」は、創作した発明のうち、出願人が保護を受けたいと思う範囲を特定したもので、具体的には、創作した発明が備える、技術的課題を解決するために必要かつ十分な構成要件を特定したものです。

 例えば、円形の断面形状を有する従来の筆記具(例えば、鉛筆)に対して、机上で転がり易いという技術的課題を解決するために、技術者が軸体に筆記具の机上での回転動作を防止する機構を設けた筆記具を創作した場合、出願人はその筆記具の構成要件を、例えば、下記の【請求項1】のように特定します。
 【請求項1】
 A.線状の芯材と、
 B.前記線状の芯材を支持及び保護する、棒状の軸体と、
 C.前記軸体に設けられた、当該軸体を机上に載置したときの回転動作を防止する回転防止部と、
 D.を備えた筆記具

<出願発明の全ての構成要件が一致している先行技術文献を探す>

 出願発明と同一の特許文献とは、その特許文献に記載された発明(以下、「公知発明」と言います)の全ての構成要件が出願発明の対応する構成要件と一致しているものです。
 上記の筆記具の新規性の審査では、出願時に公開されている世界中の特許文献(以下、「先行技術文献」と言います)の中に、請求項1の記載の構成要件A,B,Cが全て一致している筆記具Dが記載された特許文献(このような文献を「X文献」と言います)を探すことになります。

 構成要件が一致するとは、当該構成要件を定義している技術要素が完全に一致していることです。
 上記の筆記具Dの例では、構成要件Aの技術要素は「芯材」と「芯材が線状である」です。「芯材」はあるが、その心材が線状ではない場合は、構成要件Aと同一ではありません。
 また、構成要件Bの技術要素は「軸体」と「軸体は棒状である」、「軸体が線状の芯材を支持及び保護している」です。「軸体」はあるが、その軸体が棒状ではない場合やその軸体が芯材を支持若しくは保護していない場合は、構成要件Bと同一ではありません。
 また、構成要件Cの技術要素は「軸体に回転防止部が設けられている」と「回転防止部は軸体を机上に載置した時に当該軸体の回転動作を防止する」です。「回転防止部」はあるが、その回転防止部が軸体を机上に載置した時の回転動作を防止するものではない場合やその回転防止部が軸体に設けられていない場合は構成要件Cではありません。

 新規性の審査は、X文献を探すだけの作業ですが、出願発明との同一性の判断が厳しく、出願発明の構成要件に特別な限定要素が記載されていると、X文献を探すことは難しくなります。
 また、X文献により新規性が否定されたとしてもそのX文献に記載されていない内容に構成要件を修正すれば、新規性の拒絶理由を解消することができます。