第4回 特許を受ける権利って、なに?

<特許を受ける権利は特許を請求できる法的地位>

 特許法には第33条、第34条に「特許を受ける権利」の条文がありますが、これらの条文は「特許を受ける権利」の譲渡性などを規定したもので、「特許を受ける権利」の定義を規定したものはありません。
 「特許を受ける権利」とはどのような権利なのでしょうか?

 特許法第49条(拒絶の査定)には、
 「審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶の査定をしなければならない
  七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。」
の規定があります。

 この規定は、特許出願人が「特許を受ける権利」を有していないときは、当該特許出願人がした特許出願が特許法に規定する特許の要件を満たすか否に関係なく当該特許出願に対して特許をすることはできないことを示しています。この規定から「特許を受ける権利」は、特許出願人が特許出願に係る発明に対して特許権の権利主体となり得る法的地位を示すものであると解することができます。

 特許出願人が特許出願に係る発明に対して特許権の権利主体となり得る法的地位(権利)を有していなければ、当該発明に対して特許を請求できる法的地位(権利)も有していないことになるので、「特許を受ける権利」は、特許出願に係る発明に対して特許を請求できる法的地位と解することができます。

<特許を受ける権利の原始取得は自然人にだけ認められる>

  特許法第33条第1項は「特許を受ける権利」が移転できることを規定していますが、この規定の前提には「特許を受ける権利」を原始的に取得した者がいることが必要です。また、「特許を受ける権利」は、特許出願に係る発明に対して特許を請求できる権利ですので、その権利の発生には特許出願に係る発明と一体不可分の関係がなければなりません。

 この観点で特許法第29条(特許の要件)の規定を見ますと、同条第1項 は「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と規定し、同条第2項は「特許出願前に・・・容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」と規定していますので、特許法第29条は、「特許を受ける権利」の原始的な取得者を規定していると解することができます。
 
 特許法第29条は、人が産業上利用可能な新規性及び新規性を有する発明を完成すると、その完成と同時にその人(発明者)に「特許を受ける権利」が認められることを規定していますので、「特許を受ける権利」を原始的に取得する者は創作能力を有する自然人に限られ、創作能力を有しない法人が「特許を受ける権利」を原始的に取得することはありません
 なお、「特許を受ける権利」は譲渡性がありますので(特許法第33条第1 項)、発明者から「特許を受ける権利」を譲り受ければ(承継すれば)、法人が「特許を受ける権利」を保有し、発明者がした発明について特許出願をすることも可能になります。

<特許を受ける権利の承継は出願しなければ有効ではない>

 「特許を受ける権利」を原始取得した発明者はその「特許を受ける権利」を他の人(法人を含む)に移転することができます(特許法第33条第1 項)。発明者が譲渡契約などで他の人に「特許を受ける権利」を移転した場合、譲渡契約などは当事者間で完了し、第三者に公示されることはありませんので、その当事者以外の第三者は発明者がした発明の「特許を受ける権利」を所有している人を確認することができません。

 例えば、発明者が同一の「特許を受ける権利」を複数の人に譲渡し、その「特許を受ける権利」を承継した複数の人がそれぞれ同一の発明について特許出願をした場合、特許庁では「特許を受ける権利」の真の承継人を確認することはできません。

 そこで、特許法では、出願前に「特許を受ける権利」を承継した場合は、その承継人が特許出願をしなければ、その承継の有効性は第三者に対抗できないこととし(特許法第34条第1項)、出願後に「特許を受ける権利」を承継した場合は、特許庁長官に届けなければ、その承継の有効性は第三者に対抗できないこととしています(特許法第34条第2項)。

 特許法第34条第1項の規定により、同一の発明者から同一の特許を受ける権利を承継した複数の特許出願人から同一の発明について複数の特許出願が特許庁に申請された場合、特許庁では、最先の特許出願の特許出願人の「特許を受ける権利」の承継を有効とし、それ以外の特許出願人の「特許を受ける権利」の承継は無効とし、最先の特許出願の以外の特許出願に対して特許法第49条第7号を適用することになります。
 なお、最先の特許出願が複数ある場合は、それらの特許出願の出願人の間で協議して「特許を受ける権利」の有効な承継人を決定することになります(特許法第34条第2項)。